明日から九州へ「せり歌」の取材へ

明日から九州へ調査へ。とりあえず博多に飛んで明後日から宮崎入り。
なんの調査かというと、それは「せり歌」などと呼ばれる神楽を見ている人たちが現場で歌う歌なのだ。
こういう話はまつりの時に行ってもみなさん忙しくて聞けないからね。

神楽には「神歌」という歌が神楽衆や太夫などと呼ばれる神楽をする人たちにより歌われ、神歌がないと神楽とは呼べないというくらい重要なもので、民俗音楽としても興味深いものが多い。
そして神歌は舞やお囃子とともに神楽を「保存継承」する対象になっているのだが、「せり歌」の方は観客が歌うものなので保存や調査の対象にはなりにくい。
かつては神楽とせり歌が一体となって盛り上がっていたが、今はせり歌が聞かれなくなって寂しいという話を古老からはよく聞くし、自分もせり歌で盛り上がった場にいた回数は極めて少ない。

だから、知っている人、歌える人がいるうちに、どのような場面でどんな歌を歌うのか確認したいし、実際に歌ってもらって録音も出来ればと思っている。かつては歌垣のように神楽舞台を挟んで神楽をダシにして男女が恋の歌を掛け合うようなものもあったと聞くとなおさらだ。

渡辺伸夫先生はじめ、研究者の人達によってテキストとしてはせり歌は記録されているけれど、どんなメロディー、どんな歌い方なのかということは、文字や五線譜では表せないのである。

民俗学は「聞き取り」から始まるわけだが、文字化出来ず写真にも撮れない音楽は民俗学では扱いきれなかったのでしょう。だから今のうちにそれだけを単独で録音しておくしかないのである。
現場では神楽のお囃子と同時に歌われるし、誰が歌い始めるかわからないから記録は難しいのである。

今回は高千穂、椎葉、諸塚、村所、尾八重を回りたいと思っているが、諸塚の南川神楽に連絡したら、歌をよく知っている長老が二人、最近亡くなられたそうだ。
もう時間がないのである。

だから自腹切って行くわけで、それだからいつもは「半額ハンター」でゲットした食材で自炊して安ワイン飲んでいるわけである。

しかも、文字化出来ないから論文にもならないし、CDやDVDにも出来ない、どのような形を持って「成果」とするか、わからないまま始めるのだ。
もし、「やはりせり歌がないと寂しいなあ、若い連中に覚えてもらいたいもんだ」というような状況になった時に役立つような記録を録っておきたいのである。

「せり歌」はすでに録音もあるらしく民謡大会みたいな所で歌われたこともあるだろうけど、舞台芸能化されなかったプリミティブな民謡としての価値も高く、古謡の部類に入るのではないだろうか。

今回は高千穂秋元、椎葉嶽之枝尾、諸塚南川、村所、尾八重と、これまでご縁のあったところを回ってきます。

写真はせり歌(ここではぜぎ歌と呼ぶらしい)が出て盛り上がっている諸塚南川神楽「三荒神」です。