ジャズ

僕の先達であり、お付き合いの世界をひろげてくれたW田さんの家を訪ね、ふたりでしみじみと忘年会をする。ジャズ喫茶の全盛期と日本のロックの黎明期にその中心で青春をすごしたW田さんは還暦を過ぎてもまだ少年のように若々しく生きている希有な人である。
今はオーディオライターとして売れっ子で、部屋の中は高級AVシステムに膨大なレコード、CDのコレクションが並ぶ。今までもたくさんのいい音楽を教えてもらった。

この晩はまず、ウェス・モンゴメリーのヨーロッパライブの映像を見ながら飲み始める。僕にとってもW田さんにとってもウェスは特別なギタリストだ。僕は高校生の頃、ほんとに無理をして3枚組のボックスセットを買って、そのブックレットの美しい写真は札幌の自宅の居間にずっと飾ってある。彼は42才で亡くなった。

ウェスの動画はレーザーディスクを一枚持っているが、このヨーロッパライブのものは初めて見る。弦の話、アンプの話、サイドメンの話、コルトレーンとのリハーサルの音源、絶対あるよね、などなどW田さんと話していると重箱の隅がいっぱいあって楽しい。

そして「ランニングベースは誰が始めたんだっけ」という話になり、一枚のCDを引っ張り出してくれた。SP音源をCDにしたもので、ジミー・ブラントンとエリントンのデュオが収録されている。

オーケストラを率いていたエリントンがベースとピアノだけで録音したということがまずすごいし、それが1941年というのもすごい。そしてその音はSPのノイズがまったく気にならないいい音だし、演奏はモダンだ。アルコの音色も良くて「ポール・チェンバースのゴリゴリアルコとは違うね(笑)」とか、二人でこのテイクを絶賛。ジミーは24才で亡くなった。

そのあとはまだ健在のマッコイ・タイナーの去年出たアルバムや、プラグドニッケルのマイルスとかいろいろ聞いて、巨匠たちのすごさにあらためて感動しつつ、久しぶりにジャズ漬けとなった。
ささやかだったけどいい忘年会になった。W田さん、ありがとう。