衝撃の久見神楽

25日、朝食後ツアーの基本プログラム参加者はフェリーで本土へ戻る。僕とあとふたりの3名はオプションの久見神楽を見るために別のフェリーで島後へ。僕の他は60代男性と80代女性。3人の年齢を会わせると200才を超える(笑)

神楽は夜からなのでレンタカーを借りてまずは観光。一昨年だったか火事で全焼してしまった隠岐国分寺に行ってみたら、まだなにも再生されておらず焼け跡に基礎の石が並んでいるだけだった。とても大きなお寺だった記憶があるのだが、敷地だけ見ると意外とせまい感じだ。しかし暑い。
その後水若酢神社を参拝して、近くにある五箇創生館へ。ここでは島後の伝統文化「牛突き」や「古典相撲」などをビデオで見た。途中から見たのでもう一回最初だけ見ようと思ったら、その回はより詳しい別バージョンだったので、結局最後まで見てしまった。
古典相撲は地元の人が力士なので、へんな肥満体ではないので美しい。牛突きも迫力があり、やはり島の男はワイルドだなあと思った。
そしてこの古典相撲、歌も歌って「ドスコイドスコイ」と囃す。化粧まわしを着けて歌う場面もあり、どっかで見た雰囲気だなあと思ったら、先日浅草木馬亭浅草雑芸団がやった秋田の願人踊りと共通点がある。北前船で秋田に渡って願人踊りに使われたのではないだろうか、などと妄想する。これは上島さんに報告しなくては。
それから、ローソク島を見に行ったり食べ物を買い物したりして久見の伊勢命神社へ。まだ誰もいないベンチで夕食。だんだん暗くなってきて見えなくなってきたら人がポツポツと集まってきて準備が始まり、照明も少し点いた。
神楽が始まったのは9時半頃。始まった頃はまだ人も少なかったが、だんだん増えてきていい感じである。夜店のひとつも出るともっと夏祭りっぽくなるのだろうな。
楽殿の正面に地面に敷かれた桟敷とその後ろに一段高い桟敷が、そして横にはベンチが並ぶ。神楽殿佐陀神能佐太神社の雰囲気に近いが、二見浦の夫婦岩の幕や虎と龍の絵があるのは土着な感じだ。

久見の人たちはみんなそれぞれ好きなところに陣取って、ビール飲んだりしているが全体的にはあまり飲みまくったいる雰囲気はない。どちらかというと家でご馳走を食べて、たっぷり飲んでからやってくる感じかな。4年前は松浦宮司のお友達の家にお邪魔してたらふくご馳走をいただき、運転手じゃなかったのでしこたま飲んで、なんと撮影したビデオテープを一本紛失してしまったのだ。今年は運転手だし、夕食の時にビールを少し飲んだだけで、今回はマジメに撮影に集中した。
久見神楽のことを説明し始めると長くなるし、けっこう難しいのでおおざっぱに言うと、佐陀神能隠岐島前神楽の両方の要素があって、独自の雰囲気を持つ神楽といったところかしら。これでもわかんないだしょうが(笑)
巫女さんが正式メンバーとして入っているのは、巫女神楽以外だと他に島前神楽と秋田の保呂羽山の霜月神楽くらいしかまだ見たことないなあ。そしてここの巫女さんはいわゆる巫女の姿ではなく、黒い着物に上に白い上衣を羽織って舞う。頭に冠をかぶることもないので、かつては神懸かりをしたであろう、民間のプロの巫女の姿を彷彿とさせる妖しさがあって、これがたまりません(笑)。11年前は年配だったが、最近は若手に代替わりしたようだ。

そして、夜も更けてきてから13年ぶりに復活させたという「鹿島」という演目が始まったのだがこれにはぶっ飛んだ。ここの神楽は悪神と戦うパターンの演目があって、ベースになる部分にそれぞれの演目の特徴が加味されるのだが、ここでは勢いよく幕を払って飛び出してきた悪神がなんと、具合を悪くして泡吹いたみたいにひっくり返って倒れてしまうのだ。
「なんだこれは ?」と見ていたら登場してきたのが「お医者さん!!」。仁王テイストの面に衣装を着けているのだが、なんと帽子をかぶり! 、カバンを持って、フザけたみたいな作り物の馬にまたがって出てくるではないか。

そしてまたカバンから紙で作った小道具の聴診器を出して診察したり熱はかったり、注射したり、なんとなんと酸素吸入ボンベまで(笑)。いやあ、笑った笑った。でもお囃子は神楽そのものだし、展開も神楽そのもの。いかにも明治のお医者さんという感じで、新奇な感じはなくぜんぜんハマっているのだ。
こんな近代的な小道具を使う演目は初めて見たが、なんか楽しくて共感する。神楽から外れずに新しいアイデアを取り入れ楽しいものにしている。演出やメイクが他の芸能と変わらなくなるより全然自然に見えて、少なくとも明治まではこの神楽は生き続け、変化してきたことがわかる。問答のアドリブで現代の話題を出して笑いを取る神楽は多いが、メインの舞にこの演出はまいった。

他の神楽も一演目くらいこういうのを試してもいいのではと思ってしまったが、今となってはむずかしいだろうな。だからよけいこの神楽は貴重だ。こういうのがまだまだ他にもあるかもしれないし、こういうやり方なら少しはあった方がいいと思う。

衝撃だった。神楽をある程度数見ていないとこのすごさはわからないかもしれないけど、たいへんなことなんです。いやあ、ほんとこういう姿を見ることが出来て良かった。
そして夜が明けた5時過ぎに神楽は終了。あっという間に神社はまたもとの静けさに戻った。