奇跡の一夜

micabox2007-08-18


田中泯さんの「ダンス白州」に早池峰嶽流の「石鳩岡神楽」が出演するというので見に行く。
去年も案内をもらっていて見に行くことが出来なかったのだが、今年も同じ神楽が来るということで見に行った。
早池峰神楽は岳神楽と大償神楽のふたつが代表で国指定の重要無形民俗文化財になっているのだが、他にも弟子神楽と呼ばれる神楽があって、石鳩岡神楽もその一つで、岳と同じような内容の神楽である。

ダンス白州の会場にはいくつも舞台があるのだが、その中の「森の舞台」に注連縄や幕が張られ、夜の8時過ぎ、とてもいい雰囲気の中で神楽はスタートした。「鶏舞」「機織り舞」「岩戸開き」と演目が進むが、どうやら省略をあまりしていないようで、かなりきちんと演じているみたいである。神楽は一演目の所要時間が長いのでイベントに出演する場合は、かなり省略することが多く、高千穂秋元神楽に韓国へ行ってもらったときもそのようにお願いしたのだが、今回はきっちり演じられていて、さすがは「ダンス白州」である。

演目は「普勝舞」「三韓」そして「権現舞」と続き、11時近くに終了したが、観客の盛り上がりはこれまで見た神楽の中でも最高のものだった。
観客は神楽を見るために来た人は少なく、「ダンス白州」に参加している国内外のダンサーやダンスファンがほとんどだから、舞を純粋にパフォーマンスとして見ているために反応がものすごくいい、そして神楽をほとんど知らない人たちだから、面が出てきただけで大きな歓声が上がる。まるで外国公演みたいだ。

僕は日本の神楽の中で、早池峰神楽の舞が最も洗練されていると思っていて、個人的には上手すぎて物足りない部分があるのだが、こういう場所にはやはりこういう神楽がピッタリだったのだろう。

そしてひとつ気がついたこと。デジカメで写真を撮る人も多かったのだが、ストロボを使う人が一人もいなかったのには感動した。舞台に上がる人が多いから、自分がされたくないことはしないのだろうな。特にストロボ禁止のアナウンスもなかったから、これは気持ちが良かった。

石鳩岡神楽の人たち、特に若い人たちはこの雰囲気、大歓声にノって、普段はやっていないような技も出したりしたようである。ここの神楽の長老である師匠は83才で、腰がだいぶ曲がっているが強弱をつけた太鼓のバチさばきは見事なもので、さすがは岳に次ぐと言われるだけのことはある石鳩岡神楽だった。
師匠の姿を見ていたら、数年前に早池峰神社の大祭に行ったときに弟子神楽としてこの神楽を見たのを思い出した。腰が曲がっちゃっているのでとても印象的だったのだが、ほんとに嬉しそうに太鼓を叩いていたのを覚えている。

泯さんによれば、去年は初めてでお互いに緊張したので是非もう一回、ということで今年の場合は開演前に振る舞い酒を出したりして雰囲気作りにも気を配ったそうだ。
その甲斐あって、この夜の神楽は(祭りとしての神楽はひとまず置いておくとして、の話であるが)、おそらく神楽史上の中でも最も美しく盛り上がった神楽になったと思う。
ただ、初めて見た人がこれが神楽だと思っちゃうと、それも困るかな、と思ったりして。地味だったり、盛り上がらなくても神楽には楽しみどころはいろいろあるからさ。

ま、そんな心配はさておき、相変わらず中途半端な舞台公演をやっている文化庁とかの役所仕事の正反対の理想的な「出張公演」の姿がここにあった。
2004年に猿田彦神社でやってもらった布川・花祭も出張公演の中ではかなりハイレベルのものを提供できたと自負しているが、この夜の「ダンス白州」には脱帽だ。うらやましい。

神楽や伝統芸能に関わる役所系の人には是非見てもらいたい一夜ではあったが、逆に「そういう人たちがいなくてよかった」というのもまた正直な感想である。
あー、気持ちよかった。